令和5年度論文
水環境科(水質環境担当)
Seasonal study of the Kako River discharge dynamics into Harima Nada using a coupled atmospheric-marine model
Valentina Pintos Andreoli, Hikari Shimadera, Hiroto Yasuga, Yutaro Koga, Motoharu Suzuki, Akira Kondo
Water, Vol.16, 614(2024)
This study developed a coupled atmospheric–marine model using the COAWST model system for the Harima Nada area between spring 2010 and winter 2011 to evaluate the seasonal influence of the Kako River’s discharge in the sea. The Kako River is one of the largest rivers in southwest Japan, contributing almost half of the freshwater discharged in the Harima Nada region in the Seto Inland Sea. Validation was conducted for the entire period, showing a good performance for the atmospheric and marine variables selected. Multiple experiments injecting an inert tracer in the Kako River estuary were performed to simulate the seasonal river water distribution from the estuary into the sea and to analyze the seasonal differences in concentration patterns and mean residence times in Harima Nada. Because the study area is shallow, the results were evaluated at the surface and 10 m depth layers and showed significant seasonal differences in tracer distribution, circulation patterns, and mean residence times for the region. On the other hand, differences seemed to not be significant during the same season at different depths. The obtained results also agreed with the area’s natural water circulation, showing that the Kako River waters tend to distribute towards the west coast of Harima Nada in the warmer seasons but shift towards the east in winter. The influence of the Kako River in the center of the study area is seasonal and strongly dependent on the direction of the horizontal velocities more than their magnitude. The mean residence times varied seasonally from approximately 30 days in spring to 12 days in fall. The magnitude of the horizontal velocity was found to be maximum during summer when circulation patterns at the surface and 10 m depth in the central part of Harima Nada also seem to promote the strongest horizontal and vertical mixes.
閉鎖性海域のCOD 上昇
藤原建紀,鈴木元治
水環境学会誌47(1), 37-46(2024)
閉鎖性海域の全窒素 (TN) ・全リン濃度は経年的に低下しているにも拘わらず, 化学的酸素要求量 (COD) は低下せず, 逆にCOD上昇がみられる。前報では, 海域のTN低下による有機物の組成変化 (C:N比上昇) が示され, これによる有機物の難分解化が示唆された。本報では瀬戸内海において同様な解析を行うと共に, 難分解化によるCOD上昇について調べた。これらにより以下の結果が得られた。TN削減により, 海域の有機物の組成変化と難分解化が起きた。この両者がCODを下げない方向に作用した。有機物の組成変化によって, 海域の全有機態窒素 (TON) は顕著に低下したものの, CODは低下しなかった。CODの難分解化によって, CODの生産量が増えなくても, 濃度が上昇する海域があった。調べたいずれの海域においても, 1990年以降, TN削減によって海域のCODは低下せず, 閉鎖性の強い水域では, 逆にCODが上昇した。
水環境科(安全科学担当)
Cooperative research on the monitoring of contaminants of emeriging concern(CECs) in the environment
Sakamoto, K., Kakoi, T.,Nishino, T.,Kato, M., Tahara, R., Nagahora, S., Hasegawa, H., Yamamoto, H.
令和5年度POPs及び関連物質等に関する日韓共同研究業務報告書p95-105(2024)
本研究では環境への影響が懸念されているパーソナルケア製品を含む新興汚染物質を対象とし、日韓両国で環境汚染実態を明らかにするため、分析法の開発や水環境での実施結果の共有を目的とした。兵庫県環境研究センターでは、水環境中の医薬品、フェノール類、難燃剤・可塑剤(PFRs)及び紫外線吸収剤(BUVs)を分析し、実態調査を行った。医薬品のうち抗生物質に関しては下水処理場の下流部で上流部より高濃度となる物質があったものの、フェノール類、PFRs及びBUVsも含め、PNECを超える物質は確認されなかった。
Enhanced metabolism of 2,3',4,4',5-pentachlorobiphenyl (CB118) by bacterial cytochrome P450 monooxygenase mutants of Bacillus megaterium
Yuko Ishida, Y. Goto, E. Haga, Y. Kubo, M. Itoh, T. Kasai, C. Tsuzuki, H. Nakamura, M. Shoji, O. Yamamoto, K. Matsumura, C. Nakano, T. and Inui, H.
Science of the Total Environment, 890, 164475, (2023)
細菌チトクロームP450モノオキシゲナーゼP450BM3は、新規基質特異性と酵素活性の向上をもたらす有望な酵素である。野生型(WT)は、広く分布するポリ塩化ビフェニル(PCB)2,3’,4,4',5-ペンタクロロビフェニル(CB118)をヒドロキシル化代謝物に代謝することが示されている。しかし、この反応にはパーフルオロアルキルカルボン酸(PFCA)の共存が必要である。PFCAを介さずにCB118を代謝するP450BM3変異体を見つけるために、基質結合キャビティと基質入り口を構成するアミノ酸から変異体を選択した。変異体A264Gは、5つのヒドロキシル化代謝物の産生において、WTと比較して高いヒドロキシル化活性を示した。ペルフルオロオクタン酸の添加は、WTと同様に最も高い活性を示した。A264GとCB118のドッキングモデルから、ヘム上部の空間が拡大することでCB118がヘムに近づき、高い活性が得られることが示された。一方、L188Q変異体を含むL188Q, QG, LVQ, GVQは、PFCAがなくてもWTより高い活性を示した。ドッキングモデルから、変異体の基質非結合状態において、基質結合で見いだされた閉鎖型がL188Q変異によって誘導されていることが明らかになった。これらの変異体は、代謝活性の向上を利用したPCBのバイオレメディエーションに有望である。
大気環境科
CNNを用いた位相差顕微鏡画像中のアスベスト繊維の自動検出・計数手法の開発
松尾 智仁, 瀧本 充輝, 前川 鈴世, 二村 綾美, 嶋寺 光, 近藤 明
土木学会論文集,79 巻,5 号,22-00129(2023)
建材に使用されたアスベストは解体時等に大気中に飛散することが懸念されるため,行政等によるモニタリングが行われている.漏洩時の迅速な対応のためには,まず迅速なアスベスト検出手法が必要であるが,従来の方法には,技術者が顕微鏡観察によってアスベストを計数するため時間がかかるという課題がある.そこで本研究では,畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いた位相差顕微鏡画像からのアスベスト検出手法および同手法をベースにしたアスベスト計数手法を提案する.CNNの学習には解体現場等から採取された試料および実験室で作成した試料を用いた.学習したモデルは検証データに対して,検出精度では適合率と再現率で定義されるF値が0.83,計数精度では相対誤差が11%という好成績を示した.